第十場 アラザの街 ラシードが数名の仲間達と共に、登場する。 エジプトの隣国への侵略は、驚くべき早さで行われていた。 それらの知らせは、彼らに因りいっそうの、焦りと苛立ちを呼び起こしていた。 そこへ王宮から、(有力な王族は皆殺しにしても、形の上で存続していたと考える。 又、エジプト人が、仮の王座に座っていても可笑しくは無い。) そこ此処に、おふれのようなものが出される。(張り紙。立て看板等。) 次の侵略のための、戦争にアラザからも、兵士を徴兵するというものだった。 今だ国民の生活は安定せず、その日その日を生き抜くだけの彼らにとって、エジプトに手を貸し戦争に男達が出ていくことは、大きな痛手でしかなかった。 どのような形であれ、その中から自分達と何よりも、シャヌーンだけは逃れなければならない。色濃くなる不安と、苛立ち。 リシャールが、シャヌーンを無理矢理せがんで連れ出した感じで、登場する。 固く難しい顔をした、ラシード達にリシャールは無邪気に話しかける。引きつった笑顔で答えながらも、皆重くのしかかるものに、耐えきれずにいた。 シャヌーンは、いつの間にか徴兵についての張り紙を見ている。努めて理解しようとするが、わき上がるのは、怒りだけだった。 そのまま、ラシードの家に場面変わる。 |
第十一場 ラシードの家 憔悴しきったシャヌーンを心配そうに取り巻く仲間達。 これからのことで、それぞれの意見をぶつけ合う。 そんな中で、ラシードだけは、シャヌーンとリシャールを守り通す方法を考えていた。 出来ることなら、女達の中に隠すのが、最善の策だろうと、説明を始める。 たとえ、この場の男達が、すべて連れられていったとしても、彼らだけは生き残らなければならないのだと。 タチアナが取り乱した感じで、登場する。 ラシードは、すぐにシャヌーンを庇って隠れるように指示する。 訳を説明するより早く、エジプトの役人が登場する。 極めて冷静に、丁寧に役人に対応するラシード。彼らが、男達を連れに来たのは明らかだった。 役人は、その場にいた数名を選び出し、残りの人数と合わせて確認をして、出立の日時を告げて立ち去っていく。 ラシードは、何とかシャヌーンをそれらの中から、外すことに成功した。しかし、ラシードは免れることが出来なかった。 エジプトのために、兵士として参加しなければならない。生き残るための選択としては、あまりに屈辱的すぎた。 |
第十二場 戦場にて 舞台一面のドライアイス。砂漠の砂煙を表したい。 その中に、大勢の兵士とセイレムの姿がある。今度のエジプトの標的は、セイレムの国であった。 エジプトの手駒として、かつての同盟国と戦うことになったのだ。 激しさと静けさ、戦闘シーンの波を持たせた場面としたい。 途中すべての静寂の中で、上手花道にアリーシャの姿が浮かび上がる。 セイレムに語りかける。何故戦わなくてはならないのか、シャヌーンへの、想いも込めて出立する、兄に向けて問いかける。 (セイレムの回想イメージ) 戦うことの矛盾は分かっている。しかし守るべきものがある限り、彼は立ち向かわねばならなかった。 かつては、友の国であっても、今はエジプトの属領国として、 敵対を余儀なくされているのだから。 (勝って、国を取り戻してやりたい気持ちもあった。) 戦闘の中、セイレムのグループ、一旦退場。 入れ替わる形で、ラシードの率いる一軍が登場する。 大将格とは行かないが、彼の能力は、エジプト側に隠し通せるものでは無かったようだ。矢張り中心を任されていた。 再び静寂の中、下手花道に、タチアナが浮かび上がる。ラシードが語る。 とにかく生き延びること、自分に万が一の事があれば、タチアナがシャヌーンとリシャールを、守り通すように。 生きてさえいれば、その血筋が絶えることがなければ、アラザの国は、甦ることが出来るのだと、言って聞かせる。 タチアナは理解できるが、納得はしていなかった。何故自分達だけが、苦しまなくてはならない、その怒りをエジプト側にぶつけたいのは、シャヌーンと同様だった。 アリーシャとタチアナ残ったままで、戦闘は激しさを増していく。エジプト側の司令官らしき声が響き渡る。総攻撃の開始である。迎え撃つセイレム。 刃が交わされ、弓矢が飛ぶ。死人の山が、そこ此処に出来る。 その中でラシードが倒れる。セイレム側の矢にあたったのか、エジプト側の放ったものか、(この場合、皮肉にも味方のものということになるが。) セイレム側を押しながらも、命を落とすラシード。 大勢の兵士を失い退却する、セイレム。 タチアナの叫びが響き渡る。 幻を追う感じで、シャヌーンが舞台奥から登場する。 何時もいつも、自分には何一つ知らされない。敵国がセイレムの国であることも、ラシードの死の知らせを受けて、初めて知ったのだった。 何も出来ない、何をすればよいのかさえ分からない。ふたつの国の大切な友が戦い、一人が命を落とした。 今までで、もっとも激しい怒りに包まれる、シャヌーン。 モノローグから、次第に落ち着きを取り戻し、何がしかの、決意を固めるシャヌーン。 悲しむタチアナに近づき、優しく慰める。 アリーシャは遠い幻のように消えていく。 |
第十三場 アラザ タチアナに語りかける、シャヌーン。静かに、エジプトへ行くことを告げる。 驚くタチアナ。何故今なのか、兄を失い悲しみをぶつける余裕もなく、シャヌーンが行ってしまう。引き止める言葉も見つけられなかった。 エジプトから、国の代表者が、貢ぎ物を持って、やってこいと言って来ていること。それは何にもまして、大きなチャンスであること。 ラシードの死に対する怒り。今回の戦のこと。何よりも国のために、自分が行かなければならないのだと、言って聞かせようとする。 そしてタチアナに対して、感謝の言葉を口にするシャヌーン。 彼女の明るさが、生きる事へのエネルギーが自分に力を与えてくれたこと、そして、リシャールを頼むと、父が母が、彼を残してくれたことに、 何にもまして感謝していること。 ラシードが何度も口にした、生き抜けと言うこと、その意味が漸く分かった気がする。(心か決まって初めて理解できた) 今の彼にあるのは、焦りでも苛立ちでもない、決意。自らが決めたこと、それだけだった。 共に旅立つのだろう、数名の男達が登場する。 反対側から、リシャールが出る。短く弟に別れを告げて、シャヌーンはエジプトへ旅立っていった。 |
第十四場 ファラオ謁見の間(タチアナの回想から…) タチアナは語る。 彼がどのような屈辱に耐え、ファラオの前に進み出ることが出来たのか。 エジプトに呼ばれたと言っても、簡単にファラオに会えるはずもなく、 幾多の人々に手を尽くし、待てと言われれば何時までも待ち、漸く謁見の時が来たというのに。 いくらシャヌーンが智の王子だとしても、エネンプティスも武勇に優れたファラオではなかった筈、 だが、あっさりと捕らえられた。セイレムの剣も役には立たなかった。 彼は自害して果てたと聞く。別れの時からその覚悟があったことは、タチアナにも、分かっていたのだから。 (紗幕の向こうで、"黄金のファラオ"のシャヌーンの場面が展開されていると考える) アリーシャが、いつの間にか登場している。 彼女もシャヌーンの死の知らせを受け取っていた。 アリーシャは語る。 屍となったシャヌーンはどうなったのか。 謀反人、いやたんなる刺客として見なされたシャヌーンは、そのまま砂漠へ捨てられた。 誰にも葬ってもらえぬまま、砂の中に消えてしまった。 二人の女に不思議と涙はなかった、悲しみが深すぎて。 そして彼の運命が最初から、分かっていたような気がして。 |
エピローグ 二人が語り終えた頃。紗幕が透けてから、静かに上がると。シャヌーンが登場する。 語る言葉も持たず、彼の心の内に残る思いを、その瞳に秘めたまま、静かに祈りの歌を歌い出す。 (プロローグの歌をテーマ的に持ってくる)人々が次第に現れ、その歌に重なっていく。 最後にシャヌーン一人が残って、静かに旅立って行く、心を残したままで。 |
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